たけとけたと片付かない部屋

製造技術の仕事や家事・育児、趣味について書きます。

読書感想「失敗の本質」 太平洋戦争、勝てる戦いを落としていた事実を詳しく知りませんでした

海外から帰ってきたら、しばらく時差ボケが抜けない体質です。たけとけたです。
今回紹介するのは、「失敗の本質:著 戸部良一」です。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

  • 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/08/01
  • メディア: 文庫
  • 購入: 55人 クリック: 1,360回
  • この商品を含むブログ (304件) を見る

この本はTwitterで紹介されているのをみて、「これは読まないと」と思いポチッと買ってしまいました。

ハリル解任の件もそうですが、相撲協会や会社の検査偽造問題などを見ているとどうにも腑に落ちなかったんですよね。「内部の人は決して悪いことをしようと思ってないのに結果がついてこなかったり組織ぐるみの不正に手を出してしまってるけど、これどういうことなのだろう?」と。そんな疑問と時差ボケで夜中寝れない時間に読むのにぴったりな一冊でした。

概要

 この本は、失敗の事例研究として6つの戦いを分析し、その過程における戦略や判断について考察しています。その中で日本軍特有の失敗はなんだったのかを概念化している研究を紹介しています。6つの戦いというのが、「ノモンハン事件」「ミッドウェー作戦」「ガダルカナル作戦」「インパール作戦」「レイテ海戦」「沖縄戦」になります。これら6つの戦いは著者らの研究時に、戦争の大局を左右し、かつ日本軍が勝利できなかった戦いをピックアップしたものになります。
冒頭に書かれていますが、本書はあくまでも「戦略・戦術としての個々の戦いにおける失敗の要因」を探索しており、政治的駆け引きやそもそも戦争をしてはいけなかった等の視点を論じているわけではありません。戦場で起こった出来事や、戦略的駆け引きに踏み込んで書いてあります。

この本の面白かった点

日本も最初は勝てていたし、勝てない戦いばかりではなかった

 僕も勉強不足だったのですが、太平洋戦争開始直後は真珠湾攻撃が有効だったこともあり海戦・陸戦ともに連戦連勝だったこと、また日本が壊滅的な打撃を受けた「ミッドウェー海戦」も兵力差で見ると米軍は日本軍よりも劣っていたことなどがあります。ミッドウェー海戦は日本は主力空母を4艦落とされる東南アジア方面の戦局のターニングポイントだったんですが、本書を読むと「なんで負けてしまったんだろう?」と思ってしまう内容です。誤解していたのは、日本は物資難にあるため常に劣勢な状況で戦わなければいけないというものでした。実際は米軍は大西洋と太平洋の両面で作戦展開する必要があり戦力を分散せざるを得なかったんですよね。そのため局所的に見れば日本軍が優勢なケースも序盤は多かったようです。(もちろん長期戦になった時に、物量や生産量に勝る米国との格差が生まれることは前提としてあります)本書では「なぜ負けたのか?」を状況を紐解きながら解説してくれています。「ガダルカナル作戦」なんかも戦力の逐次追加をしなければ勝てた、逆にいうと戦いの仕掛けどころを失敗してしまったことで泥沼化してしまったことがよく分かります。勝てる戦いを落として敗戦に向かっていったことがよく分かります。

日本は勝てない戦略をなぜ続けたのか

 僕がずっと疑問だったのは「なんでむちゃくちゃな戦術(特攻)や精神論で突き進んでしまったのか?」というところでした。というのも、当時の日本人だってバカばっかりじゃないと思うんです。戦力が劣っているケースで無茶な作戦を立てることや、特攻なんて良識があれば反対できるもんだと思います。
 ですが、本書でつまびらかにされたのは「合理性よりも組織的融和が優先された」ことでした。当時も賢い人はいて、合理的でない作戦に対してはNOが出されていたんですよね。でも「関東軍のメンツがー」とか「そんな否定の仕方をしては牟田口の立場がないー」などの組織内のいざこざを避けたいという意向が働いていました。上層部からも、角を立てないように曖昧な指示を出して「意図を組んでくれるように」という始末です。「インパール作戦」なんか作戦にもなってなかったですが、負けるとなったときに撤退の判断を上司が顔を見合わせて2ヶ月判断しなかったらしく。。。別の本に記載されていましたが、特攻も命じたほうがは「これぐらい無茶を言えば天皇陛下が戦争継続は困難と判断してくれるはずだ」などと言っていたこともあるようです。こんな適当な判断で死にに行かなければならなかった兵士を思うと、胸が痛むばかりです。

今も「日本軍式」は僕らの中にある

 そんなこと言っても未だに組織的融和を重んじる傾向や、上層部が無責任な判断をする場面は日本の組織にはあります。本書はその点について思考する素材としてとても役に立ちます。最終章では米軍と日本軍との比較論証されていますが、「これって自分の会社も同じじゃない?」と思ってしまうことが少なからずありあます。自分たちの民族性を理解しておかないと、また同じ「敗戦」を繰り返してしまうのではないかと危機感を感じました。特に高度経済成長の際に「日本軍式」しか知らない人たちが優秀な労働力として活躍したこともあり、残念なことに失敗の本質をそのまま継承してしまっている側面もあるようです。

この本から学んだこと

空気を読んで重要な判断はしてはいけない

 すぐやろうと思えるけど、実行するにはむずかしいことです。ですがその場面では些細なことであっても、それが文化として組織に浸透していく恐ろしさは計り知れないものがあります。僕は八方美人の傾向があるので、空気を読んで〜とか結構やってしまうんですが今後は改めないといけないと痛感しています。

グランドデザインを日々意識する

 米軍が日本軍より優れていた点は「目的・目標が明確だった」ことに尽きます。米軍は目的と目標が明確であり、かつ重要なメンバーでその価値観を共有できていた。対して日本軍は優雅な文章を書きがちで「結局どうなったら目的・目標が達成?」っていうのが分かりづらかったようです。グランドデザインというのは対局においての最終目的・目標ですが、これらは一夕一朝で決まるものでも浸透するものでもなく、日々議論する中で磨き、浸透させていく必要があることがよく分かりました。

最後に

 そのほかにも日本軍の官僚的組織がなぜ合理的判断のできない組織になったかの経緯等も考察されており非常に興味深いです。それぞれの戦いの考察も非常にスリリングで読み応えがあってすごく面白かったです。たまたまTwitterで上がってた本ですが、すごく面白かったので是非是非。

ではでは!